二ツ橋「結構きついね。 母に 帰って店を継いでくれと 泣きつかれました。 父は もう年で ガタがきてるから そろそろ帰ってこいと。」
暢子「ご実家というのは…。」
二ツ橋「茨城の小さな町の洋食屋です。 だけど 私は 店主の器じゃない。 2番手が合ってる。 特に フォンターナの 大城房子の右腕というポジションが 私にとって 最も居心地のいい居場所でした。」
暢子「だったら なんとか 辞めないで済む方法を…。」
二ツ橋「『いつ辞めてもいい』と言われました。 お前の代わりは いくらでもいる。 辞めたければ 勝手に辞めろ。 私の前から 消えろ!」
暢子「いやいや そこまでは…。」
二ツ橋「目が言ってました! あの人の目が。 ピカーッつって。 フフフフフ。 私は 分かっていた。 分かっていながら 現実から目を背け 未練がましく すがりついて…。 醜い。 私の人生は あまりにも惨めで 醜い!」
暢子「いや そんな 醜いとか…。」
(戸が開く音)
三郎「あっ 暢子ちゃん 知り合いに いい医者がいるんで 紹介するよ。 妹さんの病院 探してるんだろ?」
暢子「あ~ 実は オーナーに 大学病院を紹介してもらったんです。」
三郎「ああ… そうかい。 あっ それならいいんだ。」
暢子「あっ オーナーに話してみるんで どこの病院か 教えてください。」
三郎「いや 今の話は 忘れてくれ。 房子さん いや オーナーさんにも 何も言わなくていいから。」
暢子「三郎さん 前から思ってたんですけど うちのオーナーと どういう関係ですか?」
三郎「どういうって… 何だい おりゃ。」
(椅子から立ち上がる音)
暢子「おっ…。」
三郎「お前さん フォンターナの…。」
暢子「あれ 知り合いですか?」
二ツ橋「あんたのせいで…。 あんたのせいで…。 あんたさえ いなければ…。 きひひひひ…。(泣き声)」
暢子「シェフ 今夜は そろそろ…。」
二ツ橋「全部 あんたが悪いんだ!」
智「ちょっ 待って…。」
健男「うちの会長に 何のつもりか!」
智「ちょっ… 2人とも…。 ちょっと…。」
三郎「健男! 離せ。」
智「一回 落ち着きましょう! 座って!」
暢子「シェフ とにかく今日は…。 うん 帰りましょう。」
智「帰りましょう。 友利さん 待って。」
二ツ橋「離せ!」
智「和彦 頼んだよ!」
和彦「ああ。」
二ツ橋「離せ 離せ…。」
健男「会長 大丈夫ですか?」
暢子「はぁ~…。」
和彦「二ツ橋さん どうした?」
暢子「さっき そこでタクシーに。」
和彦「はぁ~… 三郎さんと二ツ橋さん 一体 どんな関係なんだ?」
智「恨みがある感じだったよな。『あんたのせいだ』って。」
暢子「シェフが お店 辞めることと 何か 関係あるのかな?」
和彦「フォンターナのオーナーが 関係してるんじゃないか?」
暢子「どういうことね?」
智「和彦の言うとおりかも。」
暢子「何が?」
智「だからさ。 三郎さんとシェフの間に フォンターナのオーナーが…。 やめとく。」
暢子「何で?」
智「暢子には 言っても分からんのに。 感覚が鈍すぎるから。」
暢子「アキサミヨー。」