荒巻「それは あれでしょ? 君の事を心配しての 愛のムチでしょ?」
鈴鹿「何か 鬱憤を 晴らしてんじゃないかしら。」
荒巻「どういう意味よ。」
鈴鹿「だから…。」
大吉「あの~ すいません。 大きい声で しゃべるか ボックス席に移動して しゃべるかして! 気になるか。」
荒巻「あ… ごめんなさい。 お挨拶が遅れました。」
菅原「んだね。 挨拶 まだだね。」
弥生「ついでに言うと 注文も まだだな。」
荒巻「じゃあ 赤ワイン。 荒巻といいます。 あとは 生ハム。 家内が ご迷惑をおかけしてます。」
大吉「いやいや 私 ここの駅長…。」
荒巻「鬱憤を晴らすって どういう意味よ。」
大吉「挨拶 終わりがよ。」
弥生「生ハムは ねえな。 サラミになっちまうな。」
<敏腕プロデューサーと大女優 世間を騒がせた大物カップルは 場末のスナックで 浮きまくっていました>
アキ「あれ?」
荒巻「実は 春子さんが 彼女のボイストレーニングの担当を しておりまして その指導方法が いささか スパルタすぎる…。」
鈴鹿「スケバンだったんですって あの方 そうでしょ?」
弥生「そりゃ おめえ 春子は 北三陸の 初代 積木(つみき)くずすだもの。」
<ちょっと やめてよ 弥生さん>
安部「『コーヒー牛乳 買って来い』って言われて カフェオレ買ってきた男子が ぶっ飛ばされたんですよ。」
菅原「あ… それ おらだ。『甘さが足りねえ』って言って 殴られて 前歯が飛んだの。」
<菅原君も安部ちゃんも 思い出さなくていいから>
大吉「優しい一面もあったべ いじめられてる小学生 助けたり。」
<そうそう>
吉田「かばん潰して 中さ鉄板入れて 武器にしてましたもんね。」
<吉田 あんた 学年 全然違うじゃん>
菅原「懐かしいなあ 天野春子 最強伝説。」
安部「県内最大規模の暴走族グループ 解散に追い込んだの 春子さんだって聞きましたよ。」
吉田「袖が浜に 渡り鳥が来なぐなったのも 春子さんのせいだって 聞きますもんね。」
大吉「優しい一面もあるって 子犬拾ってきてかわいがったり。」
<そう そう そう>
鈴鹿「駅長さん やけに肩持つじゃない。」
大吉「まあ 春子は 俺に ほれてたからな。」
<…大吉さん?>
大吉「ああ見えて 積極的な女でね 猛烈に アタックされました。」
荒巻「どうでもいい お話の途中 申し訳ありません。 かわいい方の子は?」
弥生「…私(わたす)?」
水口「ユイちゃんなら 随分前に出ていきましたよ。」
荒巻「水口!?」
勉「えっ 今 気付いたんですか?」
北三陸駅
ユイ「何で? 何で GMTとかさ 鈴鹿ひろ美とか 何で こんな急に来んの? 太巻さん 太巻さんまで…。 何で? 何で わざわざ こんな ド田舎の終わってる過疎の町に…。 今まで 誰も 見向きもしなかったくせに 何で 急に来んの? ねえ 地震があったから?」
水口「ユイちゃんが いるからだよ。 みんな 君に会いたいんだよ。 潮騒のメモリーズのかわいい方に。」
水口「なまってる方も うなずいてるよ。」
アキ「んだ んだ。 ほら ユイちゃんが 去年 言ってたとおりになったべ。」
回想
ユイ「よし 決めた! 私 こうなったら ここから 一歩も出ない! 東京なんか行かない! 私に空いたければ みんな 北三陸に来ればいいんだもん。 ね!」
回想終了
アキ「これから 電車も通って 海女カフェもつくって もっと来るぞ。 なあ せっかく会いに来たんだから 出ておいでよ。 なっ?」
荒巻「ユイちゃん? 太巻です。 どうして トイレに籠もっているのかな? おなかが痛いのかな? キリキリ痛いのかな? それとも しくしく痛い…。」
(ドアが開く音)
ユイ「痛くないです。」
荒巻「あっそう。 改めまして 太巻です。」
ユイ「私 東京には行きません。」
荒巻「え?」
ユイ「ここで やっていきます。 アキちゃんと水口さんと一緒に 潮騒のメモリーズで。」
荒巻「でも 君 もう二十歳だろ。 いつまでも ご当地アイドルじゃ 先 見えないし 東京に出るには 今が ラストチャンスじゃないかな。」
ユイ「東京も北三陸も 私に言わせれば 日本なんで。 お構いねぐ。 もうね ずっと やっていきます! 私たち おばあちゃんになっても ずっと 潮騒のメモリーズです!」
アキ「…です!」
荒巻「それは… かっこいいね。」