連続テレビ小説「ゲゲゲの女房」第121話「戦争と楽園」

台所

布美枝「あのね 光男叔父ちゃんから 相談されたんだけど。」

茂「何だ?」

布美枝「お父ちゃん 夏は忙しいでしょう。」

茂「まあ テレビも雑誌も お化けだ 妖怪だと 特集も組むけんな。 世間が夏休みで遊んどる間 こっちは いつも以上に 働かんといけん。」

布美枝「お客さんも多いですよね。」

茂「ああ。 毎日 何人も訪ねてくる。」

布美枝「その度に 南方の音楽 聞かせたり 例の8ミリ見せたりしたら 相手の方も迷惑かもしれんし。」

茂「う~む。」

布美枝「迷惑は言い過ぎかもしれんけど…。」

茂「やっぱり 向こうで暮らすか。」

布美枝「え?」

茂「みんなで 南の島に引っ越すぞ。」

一同「え~っ!」

布美枝「お父ちゃん 急に 何 言いだすの?」

藍子「冗談 言わないでよ。」

茂「まあ 聞け。 向こうは ええぞ。 まず 食い物に困らん。 果物は ようけあるけん パパイアやバナナが 一年中 食える。 畑が ちょっこしあれば 芋も作れるぞ。」

布美枝「食べ物だけじゃ暮らせませんよ。」

茂「向こうの人は みんなええ人だけん 住む所は なんとかなるだろう。 まあ 風呂は ないがな。 スコールを シャワー代わりにすれば ええし。」

藍子「風呂がないなんて 絶対 嫌だ。」

茂「便所もないぞ。」

藍子「え~っ。」

茂「そんなもんな 大自然の中で のびのび~と やりゃ ええんだ。 まあ 飲み水に ボウフラが わいとる事は あるがな。」

布美枝 藍子「ボウフラ…。」

茂「しかし 沸かして飲めば 腹も こわさん。」

喜子「鳥は いるの?」

茂「おるぞ~。 楽園のようなとこだけん 極楽鳥というのが おる。」

喜子「きれいな鳥?」

茂「ああ! 鳥も花も 向こうは みんな 色鮮やかだ。 月夜なんか 最高に ロマンチックだぞ。 虫の声の コーラスだ…。」

喜子「いいね。」

茂「仕事は ちょっこしだけして あとは のんびり談笑して過ごす。 年に何回か 祭りに熱くなる あれこそが! 人間らしい暮らしだ。 楽園というのは ああいう所を言うんだな。」

喜子「楽しそうだね。」

茂「喜子も行きたいか?」

喜子「行きたい。」

茂「よし じゃあ みんなで移住しよう。」

喜子「行こう行こう!」

茂「おう 行こう!」

布美枝「お父ちゃん 藍子の学校は どげするんです? 喜子だって 幼稚園があるんですよ。」

茂「むむっ。」

布美枝「仕事は どげするんです? 向こうで描くんですか?」

茂「だら! 楽園に漫画のような 猛事業を持ち込めるか。」

布美枝「おじいちゃん おばあちゃんは どげするんです アシスタントの人達は?」

茂「あ~ もうっ お母ちゃん いらん事 言うな! ああ! ほんなら 1年の半分は 南の島で暮らして           残りの半分は 日本で暮らす これなら どげだ!」

布美枝「無理です。」

藍子「無理だよ。」

茂「どうして 分からんのかなあ。 楽園の魅力が。」

喜子「お父ちゃん 喜子は 一緒に行くよ。」

茂「はっ…! もう1個 食え!」

布美枝「(ため息)」

茂「ありがとう 喜子。」

夫婦の寝室

藍子「お父ちゃん 本気かな? 南の島に引っ越すなんて。」

布美枝「『冗談だよ~』って 言いたいけど… お父ちゃんの場合は 本気かもしれんね。」

藍子「私 嫌だよ。 お風呂も トイレもないとこ。」

布美枝「そげだねえ。 仕事が忙しいけん たまには 夢みたいな事 考えたくなるんだわ。」

藍子「私 ボウフラの浮いた水 飲めないよ。」

布美枝「お母ちゃんも。」

(2人の笑い声)

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