輝子「何だい変わった人ねえ。」
ミヤコ「ちょっと 輝子っ! お式の前に 嫌な事 言わんでごしない。」
輝子「だけん…。」
布美枝「落ち着いて…。」
修平「あ…。」
絹代「あ…。」
巫女「こちらでございます。 前から ご順番に どうぞ。」
村井家親族1「大きな嫁さんだなあ!」
村井家親族2「茂んとこ 来てくれるんじゃけん ぜいたく言えん。」
輝子「どういう事かね…。 背広に足袋…? やっぱし ちょっと おかしいわ!」
神主「(祝詞)」
神主「『高砂の尾上の松の相生に 八千代を掛けて相結び相助け…』
茂「古代の言葉は 神さんでないと 分からんなあ。」
神主「(祝詞)」
神官「では 三献の儀を 執り行います。」
巫女「杯は両手で お持ち下さい。」
茂「こっちは 義手ですけん。」
巫女「あ すんません。」
<終生の契りを誓う婚儀は こうして つつがなく進みました>
カメラマン「お嫁さん 扇子を 手に持って。 あ そげです。 それで… こう持って はい。」
源兵衛「なかなか ええでないか 衣装も よう 似合うとるわ。」
ミヤコ「ああ けど やっぱり 足らんですねえ。」
源兵衛「何がだ?」
ミヤコ「はあ… 打ち掛けの丈ですわ。」
源兵衛「ん? あ ちっと 短いな… みっともねがな!」
カメラマン「もう ちっと 寄り添って下さい。 お婿さん 左に半歩。 お嫁さんは 右に半歩。」
(扇子が義手に当たる音)
<それは 扇子が 茂の義手に 当たった音でした>
カメラマン「はい ハの字に なって…。」
<コツンと響いた その音を この先 何度も 何度も 聞くのだろう…>
(カメラのシャッター音)
<布美枝は そんな事を考えていました>