玄関前
茂「おい ちょっと。 どげしました?」
戌井「僕は… なんと言ったらいいのか。 僕の漫画が 初めて本になった時と 同じくらい 興奮しています。 ほら!」
茂「そんなに手が震えて…。 まさか… 酒の飲み過ぎで?」
戌井「名作です。 これは 名作ですよ! きっと 特大ホームランをかっ飛ばす。 いや そんなもんじゃないな。 僕は これが 今の貸本漫画を 衰退から救う 救世主になるかもしれんと 思います! 傑作だ!」
茂「買いかぶりすぎですよ。」
戌井「どうしてですか? こんなに面白いのに。」
茂「自分でも よう描けてると 思いますよ。 自信もあります。 けど… だからといって 当たるとは 限らん。」
戌井「そんな弱気な事 言わないで下さいよ。 これは いけますよ! この分だと 来月から 原稿料を 値上げできるかも しれませんなあ。 アハハハ…。」
茂「そうだとええんだが…。」
<『墓場鬼太郎』も『河童の三平』も 大ヒットの期待を込めて 描いたのです。 けれど どれ一つとして 売れたものは ありませんでした。 今度もまた 期待は 裏切られるかもしれないのです>
サン模型店
茂「これは… すごい!」
水木家
居間
茂「帰ったぞ。」
布美枝「お帰りなさい。」
茂「『悪魔くん』 第1巻の原稿料 約束どおり 3万円 きっちり もらってきたぞ。」
布美枝「はい…。」
茂「戌井さんも これについちゃ 相当 腹をくくって 臨んどるらしい。 金の工面も ちゃんと つけとった。」
布美枝「父ちゃん それ…?」
茂「戦艦長門だ! 縮尺 700分の1だけんなあ。 俺が 手作りしたやつより ずっと大きいし 細かいとこまで よう出来とるわ! ホホホ…。」
布美枝「それ… 買ってきたんですか?!」
<やっと入った原稿料で 戦艦の模型を買ってくるなんて>
布美枝「お父ちゃん…?」
<布美枝には 茂が 何を考えているのか さっぱり分かりませんでした>