布美枝「あっ もう こんなに薄暗くなっとる。 2階におる藍子に ミルク 飲ませなきゃ。」
茂「やってみると 面白いもんだろう?」
布美枝「え?」
茂「戦艦作り。」
布美枝「ええ…。」
茂「貧乏を退治してくれるはずの 『悪魔くん』が 反対に やっつけられてしまったけども ここで 気落ちしとったら ますます 貧乏神につけ込まれる。」
布美枝「くよくよしとるより 戦艦 作っとる方が気が紛れます。」
茂「うん。 楽しい事をしとれば 自然と 気持ちも 朗らかになる。 それが ええんだ。」
<現実は もがいても もがいても 抜け出せない ぬかるみのようでした。 布美枝は 模型に熱中する茂の気持ちが 少し分かるような気がしました。 その年 昭和38年11月。 オリンピックを 翌年に控えて 衛星中継の 実験放送が流れました。 それは… ケネディ大統領の暗殺という 衝撃的な映像だったのです>
仕事部屋
布美枝「かわいそう…。」
茂「ん? 何だ?」
布美枝「『悪魔くん』 殺されてしまうんですね?」
茂「しかたない。 ここで 死んでもらわんと 話が終わらん。」
布美枝「ええ…。」
茂「最後のとこはな ケネディの暗殺を ヒントにしとるんだ。 あの人も 志 半ばで さぞ 無念だったろうなぁ…。」
布美枝「そげですね…。」
茂「何を しんみりしとる?」
布美枝「『悪魔くん』 お腹すかして 金策に出ていくところが 何だか お父ちゃんみたいで…。」
茂「おかしなとこに 感情移入するなよ。」
布美枝「けど 『悪魔くん』は この世から 不幸や貧乏をなくそうとして 戦っていたんですよね?」
茂「ああ。」
布美枝「それなのに… 次々に ひどい目に遭って 最後には 死んでしまうなんて 何だか あんまりな気がして…。」
茂「昔から 世の中のために 戦っとった人達は みんな 苦しい思いを しとるもんだ。」
布美枝「はい。」
茂「とはいっても やっぱり唐突すぎるな。 無理して 終わらせたけん 大急ぎで死んでしまった…。」
布美枝「すいまえん。 私 余計な事…。」