連続テレビ小説「ゲゲゲの女房」第83話「旅立ちの青い空」

玄関

青年「ありがとうございました。 また来ます。」

深沢「ああ また 見せにおいで。」

青年「はい!」

編集部

深沢「毎日 持ち込みがあるんです。 大手と違って うちは 敷居が低いから。 まあ 実際 低いのは 原稿料だけど。」

布美枝「とんでもないです。 ページ500円は ありがたいです。」

深沢「恐縮です。 持ち込みも 漫画なら こっちも 少し アドバイスできるけど。 漫画以外の投稿も 結構 来るんですよ。 これは 詩ですがね。 添削して 返す訳にもいかんし。」

布美枝「あれ? 太一君。」

深沢「知り合い?」

布美枝「貸本屋さんの常連さんです。 こみち書房の。」

深沢「へえ~ そう? なかなか面白いよ この人。 浮かれてないっていうか 人間に 根っこがある気がするな。」

布美枝「はい。 『鬼太郎』の面白さを 教えてくれたのは 太一君なんです。 『怖いものは 懐かしい 明るいだけのものは 嘘っぽい』って。」

深沢「『明るいだけのものは 嘘っぽい』か…。 さっき 言いかけた話ですが。」

布美枝「ええ。」

深沢「私 戦時中 満州にいましてね。 軍関係の施設で 働いてたんです。 それで 情報が入ってきました。 『日本が負けそうだ』って。 どうせ死ぬなら 日本で死のうと 終戦の直前に なんとか 日本に戻りましたが…。 もし あのまま残ってたら シベリアに 引っ張られていたでしょう。」

布美枝「シベリアか…。 政志さんもだ。」

深沢「極寒の地で 亡くなった 友人もいます。 帰国してからも 偏見の目で見られて 苦労する姿も見た。 そんな事もあって 『高度成長だ 黄金の60年代だ』と 浮かれてる世の中に 漫画で 一石投じたいと 青くさい使命感を 抱いてもいるんですよ。」

布美枝「そうなんですか。」

郁子「ただいま 戻りました!」

深沢「ご苦労さん。」

布美枝「お邪魔してます。」

郁子「あら いらしてたんですか?」

深沢「原稿 届けに来てくれたんだ。 原稿料 お支払いしてくれ。」

郁子「はい。 書店さん 何軒か回って来ました。 今月号の出足 悪くないようです。」

深沢「おう そうかい。」

郁子「置き場所 目立つ所に 変えてもらいましたから。 駅前の店は 次号から 仕入れ数 増やしたいそうです。」

深沢「すごいでしょ。 私が 頭が上がらないってのも 分かるでしょ?」

布美枝「はい。」

こみち書房

布美枝「太一君の詩の事 まだ 内緒にしとった方がええかな? 今日も お客さん 誰もおらん。」

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