静子「昼間 言うてたんと 全然ちゃうやん。 昼間は『栗まんじゅうも 食えんような国 勝てる訳ない』言うちゃったで。」
糸子「いや そんな… 適当な事 言うて…。」
(直子の泣き声)
糸子「あ…。」
(直子の泣き声)
玄関
吉田「ちょっと! 明日から もう よう預からんわ 直ちゃんは。」
(ため息)
糸子「はれ~ 何? ちょっとまた やんちゃした?」
吉田「やんちゃどころの騒ぎと ちゃうで あんた。 どこの猛獣 連れてきたんかちゅうほど 家ん中 グチャグチャになってしもたわ。」
糸子「まあ~ 堪忍なあ~。」
吉田「うっとこも いろんな子 預かってきたけど 直ちゃんは 桁が外れてるわ。 ほとほと降参や。」
糸子「あっ ちょっと待って! これ! これ 柿! 持って帰って。 な!」
吉田「いや ええわ。 とにかく 直ちゃんは 今日かぎり。 もう勘弁して。」
糸子「まあ そない言わんと。 いやいや ちょっと! なあ たまねぎは? なあ ちょっと! あんた! ちょっと! 米は? なあ! ちょっと待って! ちょっと! あああ もう!」
(カラスの鳴き声)
善作「ほいじょっと~! いやいやいや うちも 優子で 手ぇいっぱいや!」
優子「汚い 直子! こっち来な!」
(泣き声)
糸子「なあ 頼むわ。 さっき 吉田の おばちゃんにも断られたとこで もう いよいよ 直子 預かってもらえるとこ 無くなってしもたんやし。」
善作「吉田の おばはんは 何ちゅうちゃった?」
糸子「『やんどころの騒ぎ ちゃう。 猛獣や』て。」
善作「ハハハ 猛獣け!」
糸子「笑てる場合 ちゃうやん! あの子 いちゃったら ほんま 仕事にならへんやて。」
善作「まあ また 新しいとこ探せ。 お前なあ 優子かて 大概 わしら苦労してんやぞ。 これは おとなしい分 とにかく病気するさかいなあ。」
糸子「お父ちゃんらが 甘やかし過ぎてんや。 ちょっとは 寒いとこや暑いとこ ほったらかして 鍛えちゃらな あかんやて!」
善作「アホぬかせ! かわいい孫を ほったらかしなんか できるか! かわいそうに。 なあ~ 優子ちゃん!」
優子「うん?」
善作「ほな おじいちゃん 帰るよって また 明日な!」
優子「うん! さいなら~!」
善作「さいなら~!」
糸子「もう!」