オハラ洋装店
(お囃子)
糸子「何でやろ?」
安岡家
居間
糸子「こんにちは!」
玉枝「あ…。」
八重子「糸ちゃん いらっしゃい。」
糸子「食べさしちゃろ思て 買うてきた。 いてる?」
玉枝「うん いてんで。 上がっちゃって。」
糸子「ほな お邪魔します。」
勘助の部屋
勘助「久しぶりやのう。」
糸子「何や… 手ぇも足も ちゃんと ついてるやんか。 あんまり 顔 見せへんさかい どえらい事に なってもうてるんか 思たわ。 心配するやろ? 顔 見せに来んかい あんた! うちらが どんだけ楽しみに 待っちょった 思てんよ? 聞いてんか?!」
勘助「手ぇも足も 残ってるけどなあ…。」
糸子「えっ?」
勘助「もっと…。 無くなったわ。」
糸子「何がや?」
勘助「心…。」
糸子「心?」
居間
糸子「また 来るよって。 お邪魔しました。」
玉枝「うん。」
八重子「またなあ。」
小原家
オハラ洋装店
八重子「多分 勘助ちゃん 戦争で よっぽどの目ぇ 見たんや。 本人が言うように 心を無くしてしもたんやと思う。」
糸子「はあ? 何や それ。 何や それ! もう 戻ってけえへんの? その 心ちゅうもんは。」
八重子「戻ってくる… って 信じたいと思てるよ。 うちも お母さんも 泰蔵さんも…。 やっと 自分のうちで ゆっくり 眠れて… お義母さんの作った御飯 食べてるうちに… また 元の勘助ちゃんに…。」
糸子「戻るわ! 絶対 戻るわ! こんなん 大げさに考えたら あかん! あの へたれが 戦争なんかに 行かされてしもたさかい ちょっと ぼ~っと なってしもたんや! すぐ戻る。 すぐ戻るわ 八重子さん!」
<大きい声で言いながら 誰よりも うちが そう思いたかったんです>