2階 座敷
(虫の鳴き声)
<戦争中でも 月は出る。 虫かて 鳴く。 優子 直子… おなかの子。 それから… 勝さん うちは まだまだ こんなに 宝を持ってるんやな。 立ち止まって ふと気づいてしもたら その事が ありがたいやら 怖いやら。 無くしたない。 おらんように ならんといてほしい>
居間
糸子「静子! 紅 貸して。」
静子「えっ また?」
糸子「ええやんか ちょっとだけや。」
静子「もう~。 うちかて 大事に大事に 使てんやで。 もう 今頃 紅なんか もう 売ってへんやさかい。」
糸子「ケチ 言いな! 戦争さえ終わったらな 何ぼでも 姉ちゃん 買うちゃるよって。 な!」
静子「もう~。」
糸子「ウフフ おおきに。 よっこいしょ。」
<ほんのちょっとでも さすんと ささへんのとでは 大違いや>
糸子「あっ 昌ちゃん! あんたも さしちゃろ!」
昌子「はあ? ええですわ うちは。」
糸子「あかん! 化粧ちゅうもんはな 自分のため ちゃうんや。 自分の顔を 見てくれる相手のために せんならんもんなんや。 な!」
昌子「大日本婦人会に 怒られますよ!」
糸子「おばはんには 言わせといたら ええねん!」
勝「ほな 配給所 行ってくんで。」
糸子「は~い!」
玄関前
糸子「行っちょいで~! 気ぃ付けてなあ~!」
勝「おう!」
<大事なもんを ほんまに大事にしよう。 そんなふうに うちが ちょっと賢なって… おなかの子が 9か月になった頃>
玄関
「ごめんください。 こちらは 小原 勝さんのお宅ですか?」
勝「はい!」
「おめでとうございます。 召集令状を お持ちしました。」
<ああ… 来てしもた>