小原家
オハラ洋装店
「そやけど せっかくの正月に せめて 肌着ぐらいは 新しいの 着せちゃりたいやろ?」
糸子「そら そうや! 肌着が新しいだけでも 気ぃが 全然ちゃうわ。」
「うん。」
糸子「はい!」
「おおきに。 ほな また来るわ!」
糸子「おおきに。」
「ええお年を。」
糸子「ええお年を。」
「あっ ええお年を~。」
りん「ええお年を。 ただいま帰りました。」
糸子「あっ… あんた 安岡髪結い店 ちゃんと分かったか?」
りん「はい 分かりました。」
糸子「あんじょう受け取ってもうたか?」
りん「はい このとおりです。」
糸子「誰に渡したん?」
りん「女の人です 背ぇ高い。」
糸子「八重子さんか。」
りん「先生に『くれぐれも お礼 言うといて』て 言うてました。」
糸子「男は おらんかったか?」
りん「男の人?」
糸子「うちと 同い年ぐらいの ひょろっとした 顔のなまっちろい…。」
りん「さあ 見てません。」
糸子「ほうか…。」
りん「背の高い女の人と おばさんだけでした。 おばさんとは 何も しゃべりませんでした。」
<よかった。 ちょっと安心やな>
居間
<受け取ってさえくれたんやったら この正月には 雑煮が食べられてるやろ。 お煮しめも きんとんも こさえられるだけ 野菜かて 入れといた>
昌子「先生。」
糸子「ほな 頂きます!」
一同「頂きます!」
「うわ~ おいしそう!」
善作「餅ぐらい 食えてんのかなあ…。」
ハル「勝さんけ?」
善作「うん。」
千代「そら これから しっかり戦うて もらわんと あかんやさかい お雑煮ぐらい た~んと食べさして くれるんと ちゃいますか?」
善作「ふん。 お前な… 軍隊ちゅうのは そんな甘いもんと ちゃうんやど。」
(小鳥の鳴き声)
<年が明けて 電気やら ガスやら いろんな規制が ますます厳しなりました>
優子「おじいちゃん 何? それ。」
善作「これなあ 懐炉ちゅうてな…。」