2階 座敷
糸子「よいしょ。 起きれるか? おばあちゃん。」
ハル「起きれる。」
糸子「ほうか。」
ハル「けど 起きたない。」
糸子「はあ?」
ハル「お粥さんなんか 食べとうない。 自分の息子より 長生きしたって 何もええ事ない。」
(窓を開ける糸子)
ハル「こら 開けるな!」
糸子「辛気くさいんは 寿命 縮める。」
ハル「風邪ひく! 殺す気か!」
糸子「長生きしたかて ええ事ない ちゅうたのは おばあちゃんやんか!」
(泣き声)
<5月 こんなええ季節やのに… まあ ロクな事がありません>
オハラ洋装店
(泣き声)
幸子 トメ「ただいま。」
昌子「何や? やっぱし 買えるもん なかったんか?」
(泣き声)
昌子「ほな どないしてん。」
居間
糸子「『うちには 売らん』? どうゆうこっちゃ。」
幸子「せやから『オハラんとこの 縫い子なんかには 売らん』て 言われたんです。」
糸子「何でや?」
昌子「『あんたとこ 闇やってるやろ』て 言われたそうです。」
糸子「はあ? 闇? 何で うちが 闇?」
昌子「さあ。 先生 この際やから はっきり 聞かせてもらいますけど 先生は ほんまに闇商売は。」
糸子「やってへんわ! やるか ほんなもん! うちに 闇なんか でけたら こんな アホみたいに 朝から晩まで働くかいな! 闇やらな あかんくらいやったら あんたらなんか とっとと 里に帰してるわ。 何で あんたらまで食わすために うちが 罪 犯さなあかんねん。」
昌子「はあ すんません。」
糸子「はあ~!」
<結局 喪を明けるんを待たんと 店を開ける事にしました。 そんな けったいなうわさが 立ってんのに じっとなんか してられません。 一日も はよ 誤解を解かんならんのです>
玄関前
(小鳥の鳴き声)
<世間ちゅうもんを うちは なめてたかもしれません>
(走る音)
「バン!」
<うちが思てるより もっともっと 怖いもんなんかもしれません>