優子「うっ!」
「優子さん!」
「優子さん!」
優子「花子さん ミヨさん うちは もう あきません。」
「何を言うてるの!」
「諦めたら あかんよ!」
優子「うちが死んでも 最後の一人まで 戦い抜くて 約束して…。」
「分かった。 最後まで戦い抜くわ。」
優子「よかった。 それを聞いて うちは… 安心して 死ねます。」
「安心して 死んで 優子さん。」
優子「おおきに… うっ…。」
「優子さ~ん!」
「優子さ~ん!」
「優子さ~ん!」
「え~ん え~ん!」
「え~ん え~ん!」
優子「何や 直子?! こっち 見んとき! あっち行きて!」
<このごろは もう 商店街のほとんどの店が閉まり 配給も どんどん減ってきました>
小原家
オハラ洋装店
(ミシンの音)
<今や 食べ物は どないかして 自分らで 手に入れんならんもんです。 うちらは 庭に 野菜を植えたり 肌着や靴下をこさえて お百姓さんを回り 直接 食べ物と 交換してもらうようになりました>
糸子「あんたら 何で うちが 糸子ちゅうか 知ってるか?」
昌子「はあ? 知りません。」
糸子「『一生 糸で食べていけるように』ちゅうて 神戸のおじいちゃんが 付けてくれたんや。」
一同「へえ~。」
糸子「ありがたいこっちゃでえ。 糸ちゅうんは ほんま こないして 潰しが きくさかいな。」
昌子「ほんまですねえ。」
糸子「ほな 行っちょいで 頼むで。」
トメ 佐知子「行ってきます!」
昌子「気ぃ付けや。」
トメ 佐知子「は~い。」
一同「行ってらっしゃい!」
トメ 佐知子「行ってきます!」
2階 座敷
ハル「はあ… はよ 天から お迎え 来んかいな。」
糸子「来るかいな。 まだ こんな お粥さんかて ようさん 食べれんのに。」
ハル「役も立たんのに お粥さんばっかり 食べて…。 長生きして… ふん 迷惑な年寄りやで。」
糸子「お父ちゃんの ひがみ根性は おばあちゃん譲りやってんな。」
ハル「善作が死んでしもて 世の中 戦争ばっかし。 うちら 生きちょったかて 何の楽しい事 あるやら…。 はあ… 死んだ方が ましやで。」
糸子「食べてんがな!」
オハラ洋装店
優子「ただいま お母ちゃん! うち 映画 行きたい!」
糸子「映画? どれどれ…。」
優子「明日 集会場に来るんやて。 花ちゃんも ミヨちゃんも『連れてってもらう』ちゅうてたし。」
糸子「何や 戦争映画やん。」
優子「行きたい! なあ 連れてってや!」
糸子「あかん。」