糸子「ほやけどなあ…。」
昌子「何が嫌なんですか? 先生。」
松田「まあ 分からんでも ないですけどもね。」
昌子「何?」
松田「ごっつい アクの強い男なんやし その北村っちゅうんが。」
糸子「はあ? ほんなん うちは どうでもええねん。」
松田「あら? ほうですか?」
糸子「ふん あんなもん ただのヒキガエルや。 やっかましいだけで どうっちゅう事ないで。」
昌子「ほな 何で?」
松田「うん!」
糸子「そやけど うちらの真逆の商売やんか。 どこの誰が着るか 知らん。『とにかく 数 こさえて 売れたらええんや』ちゅうな 何や 話が雑やん。 情っちゅうもんが ないで。 う~ん…。」
客『誰か すんませ~ん。』
昌子「は~い!」
糸子「あ~あ…。」
松田「けど ええ話です これは。」
糸子「ほやけどなあ…。」
松田「先生! 先生は こんなええ話 断れる立場じゃ ありません! やっと パーマ機代が 返ってきた思たら 今度は 美容室の改修に また ようさん貸してしもて。 おまけに 吉田さんの保証人でも あるんですよ。 万が一の事 考えたら 稼げるだけ 稼いどかなあかんの 分かりますやろ!」
糸子「う~ん。」
(ため息)
糸子「あ~あ…。」
昌子「先生1 あの ちょっと頼んます!」
糸子「うん? ふん!」
松田「ちょっと ちょっと。 先生! ちょっと!」
オハラ洋装店
糸子「ああ どうも こんにちは!」
「ハ~イ!」
(英語で)
糸子「何? 何? うん?」
(英語で)
糸子「うん? うん? ああ! 写真 持ってきてくれたん。 ああ うん うん!」
(英語で)
糸子「ディオール!」
「イエス ディオール。」
糸子「うわ~ ディオールの事やったんか。」
「イエス!」
糸子「もちろん 知ってますで。 うちも ごっつい好きや~! ディオール。」
「ディオール。」
糸子「ディオール。」
「ディオール。」
糸子「フフフッ そない言いますねんて。」
居間
八重子「糸ちゃん 新しいデザイン 載ってたよって 持ってきたで!」
糸子「へえ~ どれ どれ? ああ ほんまや ディオール! こらまた 今度のも ええなあ!」
八重子「ああ せやけど 書いてたで。今 フランスでも 戦争のせいで まだまだ 生地不足やねんて。 せやから ほんまに着れる人なんか 全然 いてへんのやて。」
糸子「そら このスカートの生地の量 ごっついもんなあ!」
八重子「あ~!」
糸子「ほう!」