周防「そいで…。」
糸子「はい。」
周防「小原さんが事務所に来とった日 おいは ちょうど あん日に けがして 病院に行く途中に 寄ったところやったとです。」
糸子「ああ そやったんですか。」
周防「やっぱい もう 組合長に 甘えるしかなかって 思たけん 頼みに行ったとです。 そしたら… 組合長が 自分じゃなくて 小原さんに雇ってもらえと。」
糸子「はあ…。 えっ 何で?」
周防「おいは 小原さんには 組合長より もっと 迷惑ば かけるけんて 言うたとばってん。」
回想
三浦「かけたったら ええやないかい 迷惑。」
周防「はっ?」
三浦「人生 そうそう ないぞ。 ほれた女子から 好きやて 言われるよな事。 周防よ…。 外れても 踏みとどまっても 人の道や。 人の道ちゅうのはな 外れんために あるもんや。 けど これ 外して 苦しむためにも あるんや。」
三浦「なんぼでも苦しんだらええ。 あがいたらええ。 悩んだらええ。 命はな 燃やすために あるんやで。 外れても 踏みとどまっても 人の道。 これ『五七五』なっとんな。『外れても 踏みとどまっても』。」
回想終了
周防「『人の道』。」
糸子「周防さん。」
周防「外れても…。」
糸子「周防さん!」
周防「あ… は…。」
糸子「ほんで 組合長 何て言うたんですか?」
周防「要は その… まあ 迷惑ば かけても よかっちゃなかかと。」
糸子「は? それだけ?」
周防「あ けど すんません。 ただ 自分が こげんして 頼みに来たとは 組合長に言われたからだけでは なかとです。」
周防「小原さんとこで 働かせてもらいたかけん。 迷惑ば かけるかもしれん ばってん。 頼むけん。 あ…。」
糸子「分かりました。 明日から来て下さい。 最初は 婦人もんの方を 手伝うてもらいながら 徐々に 紳士もんのお客さん 呼んでいけたら どないかなると思います。」
周防「ありがとうございます。」
小原家
台所
<それが ええ事なんか 悪い事なんかは さっぱり分かりませんでした ただ一つ 自分でも よう分かったんは 周防さんと おれる。 その事を この2年間 うちは 心の奥で ず~っと夢みてたんやな ちゅう事です>