「うめえ!」
金太「金ょう払え。」
「金やこねえ。」
金太「払え!」
「ねえもんは ねえ!」
金太「安子。」
安子「はい。」
金太「菓子 箱ごと持ってけえ。」
安子「えっ?」
金太「早うせえ。」
安子「はい。」
金太「こりょお売ってけえ。 うちじゃあ 1個2円50銭で売りょおる。 じゃけど 値段は おめえがつけりゃあええ。 おめえの才覚で売ってけえ。 売り上げの1割が おめえの稼ぎじゃ。」
金太「10円で売れりゃあ 1円。 100円で売れりゃあ 10円が おめえのもんじゃ。 そこから さっきの2円50銭 払え。」
「あほうじゃのう。 戻ってくるわけがねえが。」
「そうじゃ。 売り上ぎょう 持っていかれるか その前に 皆食われてしもうて しめえじゃ。」
金太「日が落ちたら冷えるのう。」
安子「寝泊まりだけでも うちに来たら? 体壊すよ。」
金太「帰ってこなんだのう。」
安子「えっ?」
金太「あの悪ガキじゃ。」
安子「何で あねえなことをしたん?」
金太「何か 似とったじゃろう。 算太に。 しゃあから 賭きょおしたんじゃ。」
安子「賭け?」
金太「あのガキが帰ってきたら 算太も帰ってくる。 帰ってこなんだら 算太も帰ってこん。」
夜
(戸をたたく音)
男の子「おっちゃん おはぎのおっちゃん。」
(戸をたたく音)
金太「帰ってきたんか。 算太…!」
算太「橘 算太 無事 帰還いたしました。 ちょ… 寒い寒い…。 ああ 火ぃあたらしてもらうで。」
金太「おめえ… 無事じゃったんか。 どこで どねんしょったんなら。」
算太「そうじゃ ほれ。 ほれ。 これこれ。」
金太「どねんしたんなら それ。 まさか おめえ また あちこちで借金して…!」
算太「あ~ 何ゅう言よんなら。 言われたとおり わしの才覚で おはぎゅう売ってきたんじゃ。 金持ちが ぎょうさん おりそうな町に 行ったんじゃ。 まあ おるわ おるわ 身なりのええ紳士淑女が。」
算太「中で わしは とりわけ気ぃの優しそうな ご婦人に近づいてこねん言うた。 『母ちゃん! 母ちゃんじゃねえか 生きとったんか! おお そうか そうか…。 わしゃあ 毎日 こねんして 足を棒にして 菓子ゅう売り歩きょうるんじゃ』。 …と もっぺん ご婦人の顔を見る。 そこで はっと悲しげに 『すんません。」