数時間後
暢子「ただいま…。」
矢作「帰る。 お疲れさん。」
暢子「とても 言いにくいこと なんですけど…。 今月分のお給料 少し待ってもらえませんか? 信用金庫に追加融資をお願いしたけど どうしても…。」
暢子「約束を破ってしまって ごめんなさい。 来月も ちゃんと払うことが できないかもしれません。 うちの甘い見通しのせいで 矢作さんを このまま 引き止めることはできません。 本当に ごめんなさい。」
矢作「店が傾いたら人件費を削る。 当たり前だ。 店を立て直すのに 俺は要るの? 要らねえの?」
暢子「矢作さんが辞めてしまったら お店を立て直すことも 営業することも無理だと思います。」
矢作「なら 辞めねえ。 この店に残る。」
暢子「でも お給料が…。」
矢作「必ず もらう。 遅れた分は 延滞金も上乗せして きっちり 払ってもらうから帳面につけとけ。 俺は 明日からも ここで働く。」
暢子「矢作さん…。」
矢作「ただし 一刻も早く店を立て直すこと。 もちろん 俺もできることは何でもやる。 こっちも 生活かかってるからな。」
暢子「はい ありがとうございます。」
矢作「お疲れ。」
玄関前
智「ごめんなさい! 疑って すいませんでした!」
矢作「おい あっ 人が見てるぞ。」
智「すいませんでした!」
矢作「あっ 顔上げろって なっ。 えっ ちょっ… おい。」
屋台
智「独立の誘い?」
矢作「ああ。 ゆうべ しつこく言い寄られたけど 今日 断った。」
智「だけど 暢子の店と 心中はしないって。」
矢作「もう二度と 恩をあだで返すような まねはしたくねえ。 一度 乗りかかった船 その船が沈まねえように できることをやる。 それが きっちりできなきゃ 自分の船は持てねえと思って。 頼りねえ船長だけどな。」
智「確かに 暢子は無鉄砲で 危なっかしいところもあるけど 自分より 相手のことを考える人間です。 決して 仲間を 海に放り出すようなことはしません。」
矢作「知ってるよ。 言っただろ 全部聞いてたって。」
回想
智「泥棒が そう簡単に改心するわけ…。」
暢子「そんな言い方 やめて!」
智「暢子 このお店が潰れる瀬戸際なんだよ。」
暢子「うちは 矢作さんを信じてる。 お金とか お店とかよりも そっちの方が一番!」
回想終了