源兵衛「あの食べっぷりは ええ。」
布美枝「それから?」
源兵衛「それだけだ。」
布美枝「それだけ? 食べっぷりだけ?」
源兵衛「ものの食い方には 人間の品性が出るだぞ。 生きる力が どれだけ強いかは 食い方を見れば 分かる。 生きるというのは すなわち 食う事だけんな。 あの男は ええ。」
布美枝「ちゃんと 見るとこ 見とるね。」
源兵衛「当たり前だ。 見どころのない男に 大事な娘は やれんわ。」
布美枝「お父さん。 だんだん。 嫁に行くの… 人より遅くなってしまったけど その分 長く このうちに暮らせて お父さんと一緒に暮らせて… 私 幸せだったと思っとるよ。 長い間… お世話になりました。」
源兵衛「何を言うちょ~だ… もう 寝れ。 明日の朝は… 早いぞ。 ぐずぐずせんと… もう 寝れ。」
(戸を閉める音)
仏間
布美枝「おばば ご縁に巡り合ったよ。 明日 婚礼が済んだら 私 東京に行くけど おばばは ず~っと見守っててくれるよね? 私が 東京に行っても 家族みんな 元気で 幸せに暮らしますように。」
<おめでとう 布美枝。 お前が どこで暮らしておっても おばばは ちゃんと見守っとるよ>
昭和三十六年 一月三十日
<そして 今日は 晴れの婚礼の日>