雪乃「先生のお書きになった記事 読みました。 『どのような境遇であれ 女だからという理由で 諦めてはならない。 女も 自らの人生を 生きてよいのである』。 先生の言葉に勇気づけられ 私は郭から逃げ出してきたのです。 お願いします。 どうか… どうか お助け下さい。 お願いします!」
蓮子「分かりました。 雪乃さん 今日から ここで 一緒に暮らしましょう。」
浪子「本気なの? 蓮子さん。 今頃 郭の連中は 血眼になって この人の事 捜してんのよ。 そんな人 かくまったりして…。」
龍一「蓮子。 僕も賛成だ。 あなたが自由になれるよう できるだけの事はします。」
蓮子「主人は 弁護士なんです。 社会に虐げられた人たちの 味方です。」
雪乃「やっぱり来てよかった…。 先生 ありがとうございます。 ありがとうございます…。」
村岡家
玄関前
<そして いよいよ 花子の ラジオ初出演の日がやって来ました。>
英治「花子さん。 緊張してる?」
花子「練習はしたけれど やっぱり緊張するわね。」
英治「これ 持っていきなよ。」
英治「ニュースの原稿を読もうと するんじゃなくて 歩に 新しいお話をするつもりで やってみたら どうかな。」
花子「ありがとう…。 行ってきます。」
英治「行ってらっしゃい!」
JOAK東京放送局
応接室
黒沢「村岡先生。 帝国議会の原稿の方は なんとか読めそうですか?」
花子「はい。 有馬さんに しっかりと 教えて頂いたので大丈夫です。」
黒沢「それは よかった。 では 帝国議会の話とは別に こちらのニュースも 呼んで頂きたいんです。 今朝方 動物園のライオンが 逃げ出した事件がありまして こちらもお願いできますか。」
有馬「では よろしくお願いします。」
花子「そんな… 急に原稿を渡されても…。」
黒沢「本番までに練習する時間 まだありますから。 では よろしくお願いします。」
(ため息とドアが閉まる音)
スタジオ
花子「お願いがあります。」
黒沢「何でしょうか?」
花子「大変失礼ですが ニュース原稿を 書き換えさせて頂きました。 この原稿を 読ませて頂けませんか?」
有馬「何をおっしゃっているのですか。 あなたは 語り手として ここにいるのです。 原稿を一字一句 正確に読む事が 語り手の仕事です。」
花子「ですが… 元の原稿のままだと 子どもたちは 途中で飽きてしまうと思うんです。 小さい子どもたちの我慢は 5分ももちません。 分かりやすく 易しい言葉にした方が より楽しんで聞いて もらえるのではないでしょうか。」
黒沢「ちょっといいですか?」
有馬「いいですか。 ニュース原稿というものは 事前に逓信省の確認を取ります。 今更 変更など…。 ムチャなお願いをしている事は 分かっていますが もっと 子どもたちにニュースを 楽しんで聞いてもらいたいんです。 どうか お願いします。」
黒沢「分かりました。 すぐに逓信省に確認を取ります。」
有馬「黒沢さん。 部長に相談もせずに いいのですか?」
黒沢「今は 少しの時間も惜しいので 部長には 後で報告します。」
花子「ありがとうございます!」