糸子「ほんまは 菓子屋から 賃金 もうてんねやろ? 全部 ここで使てしもたんか? お前 菓子屋のおっちゃん 悪者にして おばちゃんに 賃金 渡さんと こんなとこで 女と踊って 喜んじゃったんか。 帰るで。 帰るで!」
勘助「嫌や!」
糸子「ああ?」
勘助「『次 俺と踊る』て 言うてくれたんや。 今 帰ったら… 今 帰ったら 俺 サエちゃんと踊る資格 のうなる気ぃする。」
糸子「お前 どこまでアホやねん。 初めっから お前に 資格なんか ないんじゃ! お前は まず おっちゃんに 義理 果たす。 おばちゃんに孝行する。 それが 何より 先なんじゃ!」
勘助「そやけど そんな事 しちゃったらな。」
糸子「何や?」
勘助「サエちゃん ほかの男に とられてまう。」
(殴る音)
糸子「このボケナス! ふぬけんのも ええかげんにせえ!」
(悲鳴)
糸子「どの頭が そこまで腐っとうねん! 見せてみ! 見せてみ! ほら 見せてみ!」
フロア係「お客さん 困ります。 落ち着いて下さい。」
糸子「離せ!」
フロア係「ほかのお客さんに 迷惑かけますから。」
糸子「離せ!」
フロア係「お客さん お願いしますから。」
控え室
支配人「ふ~ん… 珍しいのう。 まあ うちで起こる けんかちゅうたら ほとんどが 痴話げんかや。 踊り子の取り合い。 客の取り合い。 旦那が入り浸ってんのを 嫁はんが連れ戻しに来る。『親孝行せんならん』か… 修身で習たのう。」
糸子「こいつが ここで踊るんは 100年早いですわ。」
支配人「ねえちゃん なかなか ええ性根しとるな。 うちで雇たろか?」
糸子「いや うちは もう 洋裁の職人やってますよって。」
支配人「洋裁? どこでよ?」
糸子「ロイヤルちゅう店です。」
<結局 あの 顔の怖い支配人は『金輪際 勘助を店に入れへん。 踊り子とも会わさへん』ちゅうて うちに約束してくれて。 勘助は ベ~ ベ~ 泣いちゃったけど 慰める気ぃにも なりませんでした>
道中
(勘助の泣き声)
泰蔵「おう…。 どないしたんや?」
糸子「なんも聞かんといちゃって。 そやけど… 1発 殴っといちゃって。」
(下駄の音)