レストラン・フォンターナ
オーナー室
房子「つまり あなたの考えは 変わらないのね?」
暢子「はい。」
房子「あなたは まだ若い。 この先 いくらでも 自分の店を持つ機会はある。 今が最善とは思えない。」
暢子「今 諦めれば やんばるの姉が出してくれた お金も 無駄になってしまうんです。 次に 開店資金がたまるまで また 何年かかるか分かりません。 どうして そこまで反対するんですか?」
房子「妹のような思いをさせたくない。」
暢子「妹さん?」
房子「戦時中 私は 妹と一緒に暮らしていた。 妹は 新重の体で 出征した夫の帰りを待っていた。」
回想
客「ごちそうさん。」
智子「ありがとうございます。」
房子<ただで 居候させてもらうのは 悪いと言って 商売を手伝ってくれたの。>
智子「ありがとうございます。 また お願いします。」
房子<毎日 目が回るほど忙しかったから 私は ついつい厚意に甘えて。 だけど ある日…。>
(食器がおちる音)
房子「智子? 智子? ちょっ… 智子!」
回想終了
暢子「流産?」
房子「直接の原因は 分からない。 仕事を手伝ってくれていたからかどうかも 本当は 分からない。 だけど どうしても考えてしまうの。 私が もう少し 気遣ってあげていればって…。」
暢子「話してくれて ありがとうございます。 今まで以上に 気を付けます。 自分の命と 新しい命と どちらも大切にします。 でも うちは 諦めたくないんです。 長い間の いろんな人の支えがあって うちは 今 お店を始めようとしています。」
暢子「そんな時に おなかに この子がいてくれることは うちは 逆に 最高に心強いことだと 思っています。 うちは お店をやりたいんです。 この子と一緒に 頑張りたいんです。」
房子「条件が3つある。」
暢子「はい。」
房子「1つ…。 店の味を任せられる料理人を 雇うこと。 体調が悪い時 疲れた時 それから 産前産後に あなたは 必ず 店を休まなくてはならない。 そんな時 100%信頼できる料理人が いなければ あなたのその思いも『絵に描いた餅』。」
暢子「はい。」
房子「もう一つは 店の看板メニューを決める。」
暢子「看板メニュー?」
房子「お客様を引き付ける 魅力的な看板メニューがあれば 仕入れも調理も 全て効率よくできる。 結果 体の負担が減る。」
暢子「なるほど…。 もう一つは?」
房子「心身ともに健やかでいること。 どんなに忙しくても きちんと お医者さんに通う。 重いものと持ったり 立ちっ放しに なったりしないようにする。 階段は 1弾ずつ上り下り。 体を冷やさず よく寝て よく食べて 体が しんどいと思った時には すぐに仕事の手を止める。 この3つを守れるなら… 私は 反対しない。」
暢子「分かりました。 ありがとうございます。」
房子「泣くことはないでしょ。」
暢子「泣いてません!」
房子「あなたのことを信頼する。 やるからには 成功させなさい。」
暢子「はい。」