居間
糸子「はよ食べ! はよ食べな だんじり 来てまうで!」
安岡玉枝「おはようさん ごめんよお。」
糸子「あ 安岡のおばちゃん。」
玉枝「おはようさん。」
糸子「おはようさん。」
玉枝「ほれ 『おはよう』言わんけ。」
ハル「はれ~ おはようさん。」
玉枝「おばちゃん こない早うに すまんよお。 何や もう 家に おっても 気ぃがせいてよお 何も 手ぇつかへんよって 来てしもたんやし。」
ハル「どや? 泰蔵ちゃん あんじょう 出ていったけ?」
玉枝「はあ…。 『お母ちゃんは 何も心配すな』って 言うちゃったんやけどよお…。」
<泰蔵にいちゃんは おばちゃんとこの長男さんで 今年初めて 大屋根で 大工方をやります>
善作「泰蔵! 屋根 任せたで。」
安岡泰蔵「はい!」
<大工方ちゅうんは だんじりの 屋根の上で 合図を出す 一番恰好ようて 一番危ない役です>
小原家
ベランダ
糸子「おばちゃん こっち こっち! おばちゃん ここ 座り! だんじりが 一番よう見えるさかい。」
玉枝「はあ…。」
糸子「どないしたん?」
玉枝「糸ちゃん…。 おばちゃん もう 昨日から 全然 寝てへんねん。」
糸子「何で?」
玉枝「泰蔵の事が 心配で心配でなあ。 そら もう 初めての大屋根やろ。 だんじりから 落ちんちゃうかあ 下手こいて 恥かくんちゃうかあて… はあ…。」
町中
♬~(お囃子)
「行こか~! 行け~!」
「ソーリャ! ソーリャ! ソーリャ! ソーリャ!」
小原家
玄関前
安岡勘助「ソーリャ! ソーリャ!」
糸子「あ~ はよ 来えへんかな~ だんじり。」
勘助「ソーリャ! ソーリャ! ソーリャ!」
<泰蔵にいちゃんの弟の勘助は うちと同じ尋常小学校の5年生で>
勘助「わいに兄ちゃん 大工方やんねんぞ。」
糸子「知ってるわ。」
<弱いくせに すぐ威張りたがります>
勘助「恰好ええやろ。 羨ましいやろ。 わいは 大工方の弟やさかいよお お前も これからは もうちょい わいの言う事 聞かな あきまへんで。 イテ!」
糸子「アホか! 調子 乗んな!」
勘助「何すんねん?」
糸子「恰好ええんは お前の兄ちゃんだけじゃ。 お前は ただのスカタンやんけ!」
勘助「け…。」
♬~(お囃子)
糸子「あっ!」
「通るぞ 下がれ!」
台所
糸子「来た! 来た! お母ちゃん だんじり 来たで!」
ハル「ちょちょちょちょ…。」
千代「あああ~。」
ベランダ
玉枝「来た… う~ どないしよう。」
♬~(お囃子)
ハル「どれ? どこ?」
♬~(お囃子)
糸子「来た!」
「ソーリャ! ソーリャ! ソーリャ! ソーリャ!」
♬~(お囃子)
「ソーリャ! ソーリャ! ソーリャ! ソーリャ!」
♬~(お囃子)
(拍手と歓声)
糸子「うわ~!」
「ソーリャ! ソーリャ! ソーリャ! ソーリャ!」
「ソーリャ! ソーリャ! ソーリャ! ソーリャ! ソーリャ! ソーリャ! ソーリャ! ソーリャ!」