紳士服・ロイヤル
(せみの鳴き声)
店内
糸子「はい。」
サエ「いや~! ごっつ ええやん これ!」
糸子「そら よかった。」
サエ「あ~! いや~!」
糸子「けど これ 見本やさかい。 今日 もう1回 体と よう合わせてから。」
サエ「いや もうええわ これで。」
糸子「はあ?」
サエ「これ このまんま 売ってくれた そんで ええ。」
糸子「いや こんな生地 ドレス用と ちゃうよって。 イブニングドレスちゅうんは もっと ちゃんと作らんと。」
サエ「ええて言うてるやろ? ごちゃごちゃ言わんと これで売りよ!」
糸子「嫌や。」
サエ「はあ?」
糸子「あんた 最初に 何ぼ かかってもええから ええもん 作ってちゅうたん ちゃうんか?」
サエ「そやから 誰も安うせえとは 言うてへんやんか! これで 高 売ったらええんやろ?」
糸子「こんな安物 高うなんか 売れるかいな! うちの仕事はな 詐欺師ちゃうんや。 洋裁師や!」
サエ「はあ~! 強情やなあ!」
店主「おい 小原!」
糸子「はあ?!」
店主「その… お客さんに 失礼言うなよ。」
糸子「分かってます。 あっち 行ってて下さい!」
店主「そやけど お前。」
サエ「女同士の話なんや 立ち聞きせんといて!」
糸子「あんな あんたかて 玄人やろ?」
サエ「はあ?」
糸子「玄人の踊り子なんやろ? うちは 玄人の洋裁師や。 あんたが ダンスホールの真ん中で 踊った時に 一番よう映えて きれいに見える そういうドレスを作らな あかんやん。 分かるやろ?」
(笑い声)
サエ「アホか。」
糸子「はあ?」
サエ「めでたいなあ あんた。 あんなとこで踊ってる踊り子が そんな立派な 玄人な訳ないやろ? 男とくっついて 適当に踊って 金もらう。 そんだけや。」
糸子「ほな 帰り。」
サエ「えっ?」
糸子「そんな女が着るドレス うちは 作りたない。 うちは 本気で作るんや。 本気で着てもらわな 嫌や。 あんたになんかに 作れへん。 さっさと着替えて 帰って。」