雉真家
離れ
安子「小豆が手に入ったんよ。 お父さん。 あんこの作り方 教えてくれんかなあ? 本物のお砂糖がねえと たちばなの味には ならんかもしれんけど それでも 私 お父さんのあんこが食べてえ。 お父さん。 お父さん。 一緒に おはぎゅう作って お母さんらに お供えしょうえ?」
台所
回想・金太「時計に頼るな。 目を離すな。 何ゅうしてほしいか 小豆が教えてくれる。 食べる人の 幸せそうな顔を思い浮かべえ。 おいしゅうなれ。 おいしゅうなれ。」
安子「おいしゅうなれ。 おいしゅうなれ。」
回想・金太「おいしゅうなれ。」
安子「おいしゅうなれ。」
回想
金太「その気持ちが 小豆に乗り移る。 うんと おいしゅうなってくれる。 甘えあんこが出来上がる。 あっ!」
回想終了
安子「はっ!」
離れ
安子「最後の仕上げん時かなあ。 ちょっと 焦がしてしもうたみてえなんじゃ。 火加減が難しゅうて…。 あっ 小豆は 割かし上手に炊けた思う。 毎朝 私の部屋まで漂ってきたんと おんなじ香りじゃったもん。 はい。」
台所
安子「稔さん。 どうか力を貸してちょうでえ。 稔さん…。」
離れ
ラジオ『台風16号は 奄美大島の西方海上を 猛烈に発達した状態で北上しています。 中心気圧は…』。
安子「お父さん。 これ… おはぎゅう作ってみたんじゃ。 一口でええから 味見してもらえんかな?」
(払いのける金太)
安子「お父さん! ごめんなさい… 無理強いしてしもうて…。 今 片づけます。」
台所
離れ
ラジオ『これまでの大雨で地盤が緩み 河川が増水しているため 今後 台風本体の発達した雨雲がかかると 土砂災害や洪水の危険性が 一段と高まります。 川の崖のそばでは 早めの避難をしましょう。 岡山県内に 台風16号が 最も接近するのは 今夜から明日の未明になる見通しです』。