一風館
グアテマラ
容子「なるほどね…。 詳しくは 分からないけど 看護のやり方とかね 見てたほうが いざっていう時にね…。」
恵理「そうなんですよ…。 何でかなあ。」
真理亜「人 それぞれじゃないの?」
恵理「…ん?」
真理亜「あんたはさぁ すぐ これは こうあるべきだとか きめつけすぎだからね。」
恵理「はぁ…。 確かに 真理亜さんの言うとおり 私は そういうふうに 考えてしまうところ あると思うんですよね…。 でもですよ 人 それぞれだっていうのも 分かるようになってきた つもりなんです。」
容子「ほう 成長してるねえ。」
恵理「はい。 夫婦にも 夫婦の数だけ 種類があるって いうか… そうだと思うし。」
容子「うん。」
恵理「はい。 …ただね ただね 真理亜さん」
真理亜「ん?」
恵理「命に かかわる事に関しては そんな 人 それぞれで いいんですかね? こうしたほうがいい。 こうするべきだって… あると思うんですよね。」
真理亜「あぁ…。 う~ う~…。」
容子「いいね。 いいね 恵理ちゃん。 いいよ。 うん うん うん。 はい。 はい。」
真理亜「慰めるなって…。」
(ノック)
容子「はい どうぞ!」
真理亜「ちょっと 誰の部屋だと思ってるのよ。」
遥「こんばんは!」
容子「こんばんは。」
真理亜「お~う。」
恵理「遥さん 珍しいさ。 どうぞ どうぞ。」
遥「お邪魔します!」
容子「あぁ どうも ありがとう。」
真理亜「だから…。 ああ…。 いい。 座って。」
遥「はい。」
真理亜「(ため息) どうした?」
遥「いや あの~ 真理亜さんに ちょっと 話があって…。」
容子「じゃ 私達は 失礼しようか?」
恵理「そうですね。」
遥「いえ いえ いいんです。 居て下さい。」
容子「本当? よかった。 そうして下さいって言われたら どうしようかと思っちゃった。」
恵理「ですよね。」
真理亜「だから… あ そうだ 何?」
遥「はい。 真理亜さんは…。」
真理亜「え?」
遥「どうして 恋をしないんですか?」
真理亜「え?」
容子「いい質問だねえ。 すばらしい。 何で?」
真理亜「『何で』って…。」
遥「ごめんなさい。 どうしても 聞きたくて…。」
真理亜「あ そうか…。 …最後の恋を しちゃったんだ 私は。」
遥「『最後の恋』…?」
真理亜「何で そんな…。 もう 何年も前の話だけどさ 私 好きな人がいたのね 編集者でさ 私の担当でね。 私… もう ず~っと 好きでさ。 でもね 手が届かない人だと 思ってたんだよね。 何ていうか 私なんかとは 違ってさ 幸せに生きてきた人っていうのか 目なんか キラキラしてて 私のにも 優しくしてくれて… 励ましてくれて…。」
真理亜「その言葉は 信じられたんだよね。 一緒にやってた 一つの仕事が 終わってね。 私 告白した『好きだ』って…。『ずっと好きだった』って告白したの。 彼にはね 付き合ってる人がいた。 なんか 噂では 聞いたことがあったんだけど でも 私…『それでも いい』って言ったんだ。 そう思った…。」
真理亜「彼は… 受け入れてくれた。 …うれしかった。 もう ほんのちょっとでも 会えれば うれしくて…。 もう 会うだけで 私は ドキドキして…。 でもね 会って 別れるのが つらくて…。 会った瞬間から もう 別れる時の事 考えて つらくて 泣きそうになった。」
真理亜「でも やっぱり 会ってる時は 楽しかったなあ。 本当の自分で いられるような 気がした。 …ただね 私「好きだ 好きだ』って 会う度に 言っててさ しつこいくらい…。 電話でも『好きだ 好きだ』って…。 寝られないの。 一晩中 ず~っと 彼の事 考えているの…。 寝られないの。 今 何してるのかな…。」
真理亜「私の知らない人と会ってるのかな。 電話したいなあ…。 でも そんな時に電話しちゃったら どうなるんだろう…。 彼の声が 困った声だったりしたら きっと 耐えられない。 電話 かかってこないかなって…。 夜中に かかってくる訳ないのに。 電話の前で 一晩中 ひざ抱えて 座ってた。」
遥「その人とは どうなったんですか?」
真理亜「うん。 まぁ… 彼は 前から つきあってる人と結婚した。 申し訳なさそうに 私に言ったんだ。『ごめん 楽しかった』って…。『ありがとう』って…。 私ね… その時… 死のうかなって思ったの。 …うん 思ったんだ。」
真理亜「彼に会えないなんて 耐えられないと思ったから…。 でもさ そうすると あの楽しかった事が 彼にとっては 全部 嫌な思い出になっちゃうんだなって…。 そう思って… やめたよ。 私ね… 彼に 何度も言ったの。『こんなに 人を好きになるのは 絶対に 最初で 最後だ』って…。 何度も言ったのよ。 …うん。」
遥「だから もう 恋はしない?」
真理亜「うん。 …その言葉 ウソにしたくないからさ。」
恵理「今も 好きなんですか?」
真理亜「うん。 好きだね。 …大好き。」
容子「じゃ あれだね… 恋をしないんじゃなくて ず~っと してるんだね あんたは…。」
真理亜「ハハハ…。 まぁ… そうかもね。 泣くな! バカ…。」
恵理「すみません。 でも 私… その気持 分かります。」
遥「すごいな なんか…。 そこまで 人を好きになったこと ないのかもなぁ…。」
真理亜「なんで…。 いいじゃん 別に…。」
遥「私… ガード 堅いから…。 自分の弱いところとか 見せるの 苦手だし…。 ただ ここんとこ 真理亜先輩と 独身同盟とか言ってたんですが やっぱり 寂しくて『ちょっと いいなあ』って思ってた人 いるんですけど… 何か 言えなくて…。」
真理亜「バカ…。」
容子「え… どんな人?」
遥「はい。 私… 医者が みんな どうなのか 分からないけど 一日中 人の事ばっかり 考えるでしょう。」
恵理「うん。」
遥「それも 結構 プレッシャーになって…。 何ていうのかなぁ。 一日のうちに ほんの少しでいいから 自分の事を考えてくれる人が いたら いいなあって思って…。 わがままなのかも しれないけど…。」
真理亜「そうか…。 で 何? そういう人がいた訳だ?」
遥「はい。 何か ほっとするなって…。 笑顔が かわいくて…。 全然 いい男とかじゃないんですけど 和むっていうか 癒されるっていうか…。」
容子「ほ~っ…。」
恵理「ふ~ん。」
遥「あ… でも 何となく 覚めました。 恋では ありませんでした。 はい。 失礼しました。」
真理亜「ん?」
恵理「え?」
容子「はぁ?」
遥「…本当に。 だって いつでも 会えるし。 その人の顔 見て ほっとしたければ いつでも…。」
容子「『いつでも』?」
遥「はい。 それよりも もっと 自分が 相手の事を考えて 眠れなくなるような恋がしたい。 私のは 恋ではありませんでした。 要するに クマの縫いぐるみが 欲しかっただけなんだ。 ハッハハハ…。」
容子「いいの その結論で?」
遥「はい!」