奈津「丸髷に結うて。 明日 入籍すんやし。」
玉枝「ああ そら おめでとうさん。」
奈津「何も めでたないわ。」
玉枝「え?」
奈津「喪中やさかい 式も挙げられへんやで。 お父ちゃん せっかく 高い花嫁衣裳 貼り込んじゃったくせに 自分で パーにしてしまいよった。 アホらしい。」
玉枝「そら 堪忍な。」
奈津「ええけど 別に。」
玉枝「大変やったなあ お父ちゃん。」
奈津「こないだ。」
玉枝「ん?」
奈津「おばちゃんとこの 上の おにいちゃんにも おんなじ事 言われた。」
玉枝「あ 泰蔵か?」
奈津「うん。 あの人 うちの名前 知っちゃあ てんな。 びっくりしたわ。」
玉枝「いや そら知ってるやろ。 吉田屋の奈っちゃんゆうたら ここいらで有名な別嬪さんやんか。 なあ こないして髪下ろしたら 奈っちゃん まだ 女学生みたいやな。」
奈津「おばちゃん。」
玉枝「ん?」
奈津「うちな ちびの頃。 あの おにいちゃんの事…。 好きやってん。」
玉枝「あ… そうか。」
奈津「うん。」
(泣き声)
奈津「ずっとな…。 好きやってん。」
(泣き声)
(八重子と子供達の声)
玉枝「ちょっと あんた。 散歩しちょいで。」
八重子「はあ? けど 今 散歩から 帰ってきたばかりやさかい。」
玉枝「ええから! もう一回 行っちょいで! ちょ… 散歩 行っちょいで。」
(泣き声)
玉枝「泣き! 奈っちゃん。」
(泣き声)